どんなものが相続財産になりますか

  相続財産といっても、プラスの財産とマイナスの財産(債務)とがあります。プラスの財産の例示としては、現金、預金、土地、建物、賃借権(借地権)、有価証券、債権、自動車、ゴルフ会員権、貴金属、美術骨董品、著作権、特許権などです。

 

預金や現金はどのように相続されますか

  銀行などの預貯金は口座名義人の相続の発生により凍結され、一定の手続きを行わないと預金の解約ができません。

 ところで、最判平成16年4月20日は、預貯金などの金銭債権は、相続開始と同時に当然に分割され、各相続人に法定相続分に応じて帰属すると判示しています。したがって、遺産分割を待つまでもなく法定相続分に応じた払戻し請求をすることが法的には可能です。
 しかし、銀行実務では、今でも、相続人全員の同意書や遺産分割協議書の提出がなければ相続人1人からの払戻請求には応じていないのが実情です。銀行が相続紛争に巻き込まれたくないと考えるのは仕方ないかもしれないが、最高裁判例が出ているのであるから判例にしたがった取扱いをする方が紛争に巻き込まれる可能性は低いと考えられますが、銀行の取扱いは変わっていません。

 しかし、預貯金の相続は例外があります。最判平成22.10.8は次のように判示しています。

「郵便貯金法は,定額郵便貯金につき,一定の据置期間を定め,分割払戻しをしないとの条件で一定の金額を一時に預入するものと定め(7条1項3号),預入 金額も一定の金額に限定している(同条2項,郵便貯金規則83条の11)。同法が定額郵便貯金を上記のような制限の下に預け入れられる貯金として定める趣旨は,多数の預金者を対象とした大量の事務処理を迅速かつ画一的に処理する必要上,預入金額を一定額に限定し,貯金の管理を容易にして,定額郵便貯金に係 る事務の定型化,簡素化を図ることにある。ところが,定額郵便貯金債権が相続により分割されると解すると,それに応じた利子を含めた債権額の計算が必要に なる事態を生じかねず,定額郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図るという趣旨に反する。他方,同債権が相続により分割されると解したとしても,同債権 には上記条件が付されている以上,共同相続人は共同して全額の払戻しを求めざるを得ず,単独でこれを行使する余地はないのであるから,そのように解する意 義は乏しい。これらの点にかんがみれば,同法は同債権の分割を許容するものではなく,同債権は,その預金者が死亡したからといって,相続開始と同時に当然 に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。そうであれば,同債権の最終的な帰属は,遺産分割の手続において決せられるべきことになるの であるから,遺産分割の前提問題として,民事訴訟の手続において,同債権が遺産に属するか否かを決する必要性も認められるというべきである。
 そうすると,共同相続人間において,定額郵便貯金債権が現に被相続人の遺産に属することの確認を求める訴えについては,その帰属に争いがある限り,確認の利益があるというべきである。」

 ところで、相続財産のうち、現金も相続開始と同時に法定相続分で分割されるのでしょうか。
 これについては、最判平成4年4月10日は、相続人の一人が相続財産たる現金を相続人名義で預金していたケースで、「現金は、被相続人の死亡により他の動産、不動産とともに相続人らの共有財産となるから、遺産分割をせずに法定相続分に応じた金員の引き渡しを求めることはできない」という趣旨の判断をしま した

 この結果、預貯金のような債権は相続と同時に分割され、現金は分割されないということになりますが、この違いの根拠は、債権と動産の違いということでしょう。

 なお、実務では、上記の理屈は前提にしつつも、相続人全員の同意により遺産分割協議をすることにより、法定相続分と異なった分割方法を定めていることが多く見られ、家庭裁判所の実務も同様に取り扱っています

 

借地権・借家権についても相続することができますか

 借地上の建物や借家に住んでいる相続人は借地権や借家権の名義人が亡くなった場合には、借地契約・借家契約をそのまま相続することができます。そこで、借地名義人や借家名義人の変更を申し出ることができます。その際、戸籍謄本など相続関係が明かとなる書類を求められることもあります。
 なお、相続により借地権や借家権を承継した場合には、名義書換料を支払う必要はありません。

 

田、畑などの農地を相続するには農地法の許可が必要ですか

 農家で、相続財産のほとんどが農地の場合には、農家を継ぐ相続人が単独で農地を相続することが多いようです。
 農地の所有権移転には、原則として農地法に定める許可が必要ですが、遺産分割により農地を取得する場合には許可は不要とされています。しかし、遺産分割により取得した農地を第三者に売却する場合や宅地などに変更する場合には、農地法の許可が必要となります。

 

事業を相続するには、具体的にどのような手続をとればいいですか

 被相続人が事業を営んでいた場合、事業を承継する相続人は種々の手続が必要になります。被相続人の事業が会社組織である場合には、一般的には株式を相続することになります。零細企業では株主総会を備え置いていない場合も多いと思われますが、株式の名義書換手続をする必要があります。また、被相続人が会社 の代表者であった場合には、新たな代表者を定めて変更登記をし、さらに、金融機関の預金口座などの代表者変更手続をしておく必要があります。特に、手形や 小切手を使用している会社では、早めに手続をして、新しい手形帳、小切手帳を発行してもらう必要があります。
 さらに、被相続人が会社の借入金の保証人になっていた場合には、保証人の地位や保証債務も相続の対象となりますので、早めに金融機関と協議する必要があります。
 被相続人が個人事業の場合には、金融機関の借入金そのものを相続することになりますので、金融機関と早めに協議する必要があります。
 

預貯金の相続手続はどのようにすればいいですか

 預貯金、一般的には相続により解約することになりますが、その際、預金を誰が相続するのか、戸籍謄本等により証明する必要があります。一般的には、それぞれの金融機関で預金解約の同意書が用意されており、相続人全員が実印を押印して印鑑証明書を添付することを求められます。
  もっとも、預金についても分割方法を定めた遺産分割協議書が準備されていれば、ほとんどの場合は当該遺産分割協議書で解約をすることができます。

 

死亡退職金は誰が貰うことになりますか

 死亡退職金の受給権者は、普通の場合、法律や会社の退職金規定などで定められています。
 受給権者が法律や内規等で定められている場合には、受取人は相続人としてではなく、固有の権利として死亡退職金を受け取るものと解されています。
 他方、こうした規定がない場合には、相続財産となるか受取人の固有財産となるかは、個々のケースによる判断となりますが、審判例は相続財産とする例が多いようです。

 実際に次のようなケースがありました。

 亡くなられたのは会社の創業者であり、死亡時は取締役会長でした。
 役員退職金規程では、弔慰金と退職慰労金が定められていました。
 まず、弔慰金については株主総会等の承認等の手続きがなく、金額的も在任年年数に関係なく儀礼の範囲の金額が定められていました。したがって、この弔慰金は、喪主に対する贈与という趣旨であると考えられ、法律上の相続財産には含まれないと思われます。
 
 次に、退職慰労金ですが、こちらは役員在任年数に応じて計算するという計算式は定められていましたが、役員が死亡している場合に誰が受け取るかという規程はありませんでした。退職の事実が発生し、その後に役員が死亡したのであれば相続財産であることは間違いなく、相続財産として処理しなければなりません。しかし、今回のように在職中に死亡された場合は説は分かれているようです。しかしながら、実務的には、説が分かれている場合には最高裁判例にしたがえばよいと考えます。
 
 最高裁判例は、死亡退職金の支給規程のない財団法人において理事長の死亡後同人の妻に支給する旨の決定をして支払われた死亡退職金は、特段の事情のない限り、相続財産に属するものではないとしています(昭和62年3月3日最高裁判所第3小法廷判決/昭和59年(オ)第504号(最高裁判所裁判集民事150号305頁))。 
 
 この判例は「財団法人」の例ですが、受取人の指定が規定されていなかったという意味では今回のケースと同様であると考えられますから、相続財産ではないということでよいと思います。

 なお、相続税の計算においては「みなし相続財産」として計算する必要があるかと思いますので税理士さんに判断してもらうとよいでしょう。

 

債務はどのように相続されるのですか

 債務が承継される場合には、原則として、可分債務については法定相続分にしたがって相続人に分割承継されます。ただし、相続により相続人に承継される債務と、承継されない債務があります。

 承継されない債務には次のようなものがあります。

① 一身専属性のある債務
  たとえば、芸術家に作品の制作を依頼していた場合、その芸術家は作品を制作する債務を負っていますが、その性質上、その芸術家でなければなしえない債務であるから相続により承継されません。
  また、身元保証契約にもとづく保証債務(「身元保証に関する法律」参照)についても、身元保証契約が個人的信頼関係にもとづいて存続するものであるから一身専属的な債務とされ、特別な事情がない限り相続性は否定されています。

② 限度額・期間の定めのない包括根保証契約
  最判昭和37年11月9日は、限度額・期間の定めのない包括根保証契約については、被相続人の死亡後

に生じた債務についての責任を否定しました。したがって、被相続人死亡時における債務残高は相続人に承継

されますが、保証人としての地位までも相続されるわけではないことが明かとなりました。
  なお、限度額・期間の定めのあるものについては、一般論として相続性が認められています。したがって、被相続人死亡時の保証残高が法定相続分にしたがって承継されるとともに、保証人としての地位も承継されます。なお、法定相続分にしたがって保証割合が定まることとなります。
  ただし、民法465条の4により、貸金等根保証契約(債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務が含まれるもの)については、保証人が死亡したときは債務の元本が確定するため、被相続人死亡後に発生した債務を保証人の相続人が保証責任を負うことはありません。

 (貸金等根保証契約の元本の確定事由)
 民法第465条の4  次に掲げる場合には、貸金等根保証契約における主たる債務の元本は、確定する。
 一  債権者が、主たる債務者又は保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。ただし、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
 二  主たる債務者又は保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
 三  主たる債務者又は保証人が死亡したとき。

  なお、相続人間の遺産分割協議で、特定の相続人がある債務を相続するように合意したりすることがありますが、これは、相続人間での内部負担割合の指定、あるいは一種の免責的債務引受にすぎず、債権者に対しては当然には効力を生じません。

 

 

相続債務にはどんなものが考えられますか

 住宅ローン、借金、借入金、買掛金、未払い税金、未払い医療費、未払い家賃などです。

 

 

会社を経営していた父が事業資金の借り入れについて連帯保証人になっていました。会社は長男が引き継ぎますが、連帯保証についてはどうなるでしょうか

  お父様の連帯保証人としても地位は、相続人全員に、法定相続分にしたがって相続されます。相続人全員で「長男が承継する」と定めても、債権者である金融機関がそれを承諾しなければ法定相続人全員に承継されてしまうのです。
 このような場合、金融機関の現実的な対応としては、法定相続人全員に承継された保証債務を免責的に長男が引き受けたり、あらためて長男と連帯保証契約を締結するなどの方法がとられます。  

 

 

生命保険金は相続財産になりますか

  被相続人が自己を被保険者として生命保険に加入していた場合、その生命保険金が相続財産となるのか否かは、保険金受取人としてどのような指定をしていたかによります。そして、生命保険金が相続財産となる場合には遺産分割の対象となりますが、生命保険金が相続財産にならない場合には遺産分割の対象とする必要はありません。

●受取人が被相続人自身の場合
  この場合は、生命保険金が一旦被相続人に帰属すると考えられますので、相続財産として遺産分割の対象になるとも考えられるます。しかし、ほとんどの場合、生命保険約款の解釈により受取人が定められることになりますから、実際には相続財産とはならずに相続人固有の財産となります。

●受取人が「相続人」と指定されていた場合
  被相続人が死亡したときの相続人となるべき者を受取人にしたと考えられますから、生命保険金は相続財産ではなく、相続人固有の財産となります。そして、相続人が法定相続分の割合にしたがって保険金請求権を有することとなります。

●受取人が相続人の中の特定の者と指定されていた場合
 この場合も生命保険金は相続財産にはならず、指定された受取人の固有の財産になります。

 以上のとおり、ほとんどの場合において生命保険金は相続財産にはなりません。

 一方で、生命保険金は遺留分減殺の対象になるかという問題があります。つまり、生命保険金の掛金である保険料を、実質的には被相続人が支払ってきたのであれば、被相続人が受取人に対し財産を無償で贈与したのと同一視できるため、遺留分減殺の対象にすることができるという見解があるのです。
 しかし、そのように考えると、一方で生命保険金が相続財産を構成しない場合であっても、遺留分減殺の場面では相続財産的な扱いをするということになってしまいます。

 この点について、最高裁は、平成14年、生命保険金が相続財産にならない場合には遺留分減殺の対象にもならないと判断し、この議論に決着がつきました。

 

 

遺産分割協議を前提とする遺産の評価はいつの時点で行うのでしょうか

 遺産分割をする前提として、個々の分割額を算出するにあたって遺産を評価する必要がありますが、いつの時点で評価するか、という問題があります。

 通説は、二段階に分けて評価するという考え方です。
 まず、第一段階は、相続開始時における評価です。
 たとえば、相続人が配偶者と子供二人という前提で、相続財産の評価が1000万円、配偶者の特別受益200万円と評価されると、配偶者の相続分は 1000分の400、子の相続分はそれぞれ1000分の300ということになります。
  なぜなら、配偶者の相続分は、相続財産+みなし相続財産の1200万円の2分の1であるから600万円ですが、特別受益は既に受領していますから、相続財産1000万円に対しては400万円の相続分を有するにすぎません。
  このように、第一段階の評価の目的は、相続人の相続分を算出するために行う評価です。

  第二段階は、遺産分割時における評価です。
  たとえば、相続開始後10年後に、ようやく遺産分割の話し合いが行われたとします。相続財産のうち、不動産については相続開始の時より価値が大幅に下落していたような場合には、遺産分割時点において再度評価をしたうえで、第一段階で算出した相続分にしたがって分割を行った方が公平であるということになります。

  しかし、第一段階での評価を基準にして遺産分割を行ったとしても不公平にならない場合(相続の開始から遺産分割までの期間が短期間であるような場合)は、第一段階の評価=第二段階の評価となりますから、実質的には第一段階の評価にしたがって具体的な相続分を算出することになるでしょう。

 

 

特別受益はどのように金額を評価するのでしょうか

  遺産分割をする前提として、第一段階で相続開始時の財産、みなし相続財産を評価して個々の相続人の相続分を計算する必要があります。その際、特別受益についてどのように評価をするか、という問題があります。

 特別受益の評価の基準時は、相続開始時とするのが通説、判例です。
 最判昭和51年3月18日(判時811号、50頁)
「被相続人が相続人に対しその生計の資本として贈与した財産の価額をいわゆる特別受益として遺留分算定の基礎となる財産に加える場合に、右贈与財産が金銭 であるときは、その贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算した価額をもって評価すべきものと解するのが、相当である。けだし、このように解しなければ、遺留分の算定にあたり、相続分の前渡としての意義を有する特別受益の価額を相続財産の価額に加算することにより、共同相続人相互の衡平を維持するこ とを目的とする特別受益持戻の制度の趣旨を没却することとなるばかりでなく、右のように解しても、取引における一般的な支払手段としての金銭の性質、機能 を損う結果をもたらすものではないからである。これと同旨の見解に立って、贈与された金銭の額を物価指数に従って相続開始の時の貨幣価値に換算すべきもの とした原審の判断は、正当として是認することができる。」

 具体的な各財産については次のように考えられています。
(1) 土地
 相続開始時の土地の時価による。路線価などが多く用いられているようである。
(2) 建物
 建物についても相続開始時の時価によるとする見解があるが、贈与時の価額を相続開始時の価額に評価換え等するという説もある。
(3) 金銭
 物価指数により相続開始時の貨幣価値に換算する。具体的には、総務省統計局編「消費者物価指数」等を用いる。
(4) 動産
 建物と同じように、相続開始時の時価によるとの説があるが、嫁入り道具等については、贈与時の価額を相続開始時の価額に評価換えするという説もある。
(5) 株式、有価証券、ゴルフ会員権等
 相続開始時の時価による。
(6) 不動産取得のための金銭の贈与
 金銭の贈与と考えられるものの、具体的な不動産の取得のためであることが明白なときは上記不動産の贈与に準じて考えられることもある。

  なお、贈与の目的物が受贈者の行為によって滅失し、価格が増減したときでも、受贈者の故意又は過失によって事実行為として目的物を取りこわし、焼失し、棄損した場合のみならず、法律行為として売却した場合にも、その目的物が贈与当時の原状のまま存在するものとしてこれを評価します。逆に、不可抗力や第三者の行為による目的物の滅失等の場合には、相続開始時の現状にて目的物を評価することとなります。

 

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