Ⅱ 戸籍制度の変遷

 

1339549659419132089941 戸籍の起源

 わが国における戸籍発祥の契機は、西暦645年の「大化の改新」にあると言われている。大化の改新の際に発せられた「改新の詔」(みことのり)は、4カ条の主文からなり、その第3条で戸籍、計帳を作成して人民を管理し、田の貸付管理を行う班田収授法という土地管理制度を作って田の貸付管理を行う制度が策定されたようである。

 これにもとづいて、670年に、全国的な戸籍として庚午年籍が作成されたと言われている。

 以降、平安時代初期まで全国単位の戸籍制度は存在していたようであるが、その後は各地で戸籍類似のものが作られるようになり、全国の統一的なものはなかったようである。

2 明治5年式戸籍

 わが国において全国統一的な戸籍は、明治4年4月4日太政官布告第170号公布の戸籍法によって整備された。この戸籍法は明治5年に施行されたが、同年の干支が壬申(みずのえさる)であったことから、この戸籍は「壬申(じんしん)戸籍」と呼ばれている(以下、「明治5年式戸籍」という。)。

 明治5年式戸籍は、全国民を掌握し、徴兵、徴税など行政の基礎資料にするために編成されたと言われているが、住所地を本籍として、戸(家)ごとに、戸主を筆頭とし、家族を直系尊属、戸主の配偶者、直系卑属、傍系親の順に記載されていた。

 また、明治5年式戸籍には、皇族、華族、士族、卒族、地士、旧神宮、僧、尼、平民等の身分が記載されていたようであるが、「穢多非人ノ称ヲ廃シ身分職業共平民同様トス」(明治4年8月28日太政官布告。「身分解放令」などと呼ばれている)により平民とされた者について、一部の戸籍では「新平民」、「元穢多」、「元非人」などと記載されていたようである。

 明治5年式戸籍にはこのような記載がなされていたほか、氏神、旦那寺、職業、資産等も記載されていたようである。このような記載のある戸籍謄本や抄本が請求によって交付され、また手数料を納付すれば、何人もこれを自由に閲覧することができるという状態に長期間置かれていた。

 この問題は、昭和42年10月に新聞に投書された次の一文に端的に表れている。

「明治5年に施行され、士族、平民、そして法の上では過去のものになったはずの”未解放部落”のことが明示された戸籍-壬申戸籍というものが、今もあって、それを市役所の窓口で閲覧させていることを、私は今まで知りませんでした。このことを、私は朝日新聞和歌山版で読んで、怒りをしずめることができません」

  そして、遂に、法務省は次の通達を発出して壬申戸籍の公開を禁止した。

昭和43年3月29日付民事甲第777号民事局長通達

明治五年式戸籍(壬申戸籍)の保存等について

標記戸籍の取り扱いについては、その保管利用状況を調査して対策をたてるまでの間のとりあえずの暫定措置として、本年一月十日付民事甲第一八九号及び翌十一日付民事甲第一〇号並びに同年三月四日付民事甲第三七三号をもつて通達したのであるが、その対策を検討した結果、今後は左記によることとしたから、その趣旨を徹底せしめ、取扱いに遺憾のないよう関係市町村長に周知方取り計らわれたい。

         記

(一)市町村において、その利用状況の実情から明治五年式戸籍を廃棄してさしつかえないものとして廃棄申請があつた場合には、従前の取扱いに従つてこれを許可してさしつかえない。

(二)廃棄の許可をした右戸籍(従前許可したものを含む。)について市町村においてこれを保存する必要があると認めるときは、それが外部に流出する等により弊害を生ずることの絶対に生じないよう保存方法につき充分な配慮をする必要があるので、関係市町村と慎重に協議し、市町村においてこれを整理して厳重に包装封印して保管するものとする。

なお、右の協議の結果市町村において保管することが適当でない場合には、法務局又は地方法務局において右と同様の方法により保管することとするが、施設の実情に応じ、その所在を明らかにして支局又は出張所に分散保管することとしてさしつかえない。

(三)市町村において、その利用状況から廃棄申請を相当としない右の戸籍については、本年三月四日付当職通達による取扱いを今後とも一層厳守するとともに、謄抄本等を作成するため使用する場合以外は、包装封印して保管する等の措置をして、その記載内容が一般外部に漏れることのないよう、厳重に市町村に留意せしめるものとする。

 このように公開が禁止された明治5年式戸籍の保存期間は閉鎖後50年であり、既に廃棄処分がなされている。もっとも、廃棄処分とは「物理的廃棄」を意味するものではないが、廃棄処分されている以上、戸籍法10条の適用を受ける戸籍ではなくなると解されるから、閲覧や謄本交付請求をすることはできない(昭和51年9月10日富山家裁高岡支部審判、家庭裁判月報29巻3号93頁)。

 なお、明治5年式戸籍が「物理的廃棄」されていないことは、次の質疑応答によっても明かである(登研253号)。

問 壬申戸籍を市町村から移管を受け保管中の法務局に相続登記の申請があった場合、登記官は必要に応じて、これによって相続関係を調査することができるでしょうか。

答 所問の壬申戸籍は、登記申請書に添付されたものでないので、登記官の審査の資料とすることはできないものと考えます。
なお、申請書に「相続を証する書面の一部は貴局保管の壬申戸籍を援用する」旨の記載があっても、それは援用できる場合に該当しないので、右と同様と考えます。

 

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